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熊谷町長よりご挨拶
この度、紫波町は、国立大学法人東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター(所長 川島隆太)、国立大学法人東北大学大学院歯学研究科(研究科長 佐々木啓一)及び一般社団法人みんなの健康らぼ(みんらぼ;代表理事 杉山麗子)と、紫波町の健康的なまちづくりの推進を目的として、包括的に相互協力することに合意し、「健康的なまちづくりの推進に関する協定」を締結しました。
経緯・目的
この協定に基づいて、先の四者が紫波町の健康的な町づくりについて包括的に相互協力して参ります。この協定締結を記念して「あえて医療介護側から考える地域のあり方」と題したシンポジウムを開催したことをご報告します。
紫波町は官民連携でまちづくりを推進してきましたが、医療介護分野でも、制度設計と財政を官が行い、民間の活力が現場の多くを支え、町民の生活を支えてきたと言えます。しかしながら、高齢化の進展や疾病構造の変化に伴い、従来の医療介護提供サービスでは町民の生活そのものを支え切れないという課題が生じています。町民が共に支え合いながら希望や生きがいを持つという健康的なまちづくり像を推進していくためには、医療介護に携わる人材だけでなく、地域づくりの主体である町民、行政、介護福祉に関わる民間組織・非営利組織等と有機的に「ごちゃまぜに」協働する必要があります。この「ごちゃまぜ」によるまちづくりこそが地域共生社会につながることを、参加者が気づき議論するための機会を創出するためにシンポジウムを開催しました。
【日時】令和元年12月21日(土)12:30〜16:30
【場所】紫波町情報交流館 市民交流ステージ
【構成】
基調講演 小坂 健 氏 (東北大学加齢医学研究所・同大学大学院歯学研究科 教授)
テーマ 「ごちゃまぜのまちづくり」
講演2 出野 紀子 氏(studio-L コミュニティデザイナー)
テーマ 「住民がつくる地域、住民とつくる地域、住民が地域をつくる」
講演3 高橋 真土香 氏(仙台往診クリニック訪問看護師)
紫波町地域おこし協力隊「ヘルスコーディネーター」採用予定者
テーマ 「まちなかにナースがいて気楽に話ができることから考えるまちづくり」
総合司会 坪谷 透 (東北大学大学院 助教、みんらぼ理事)
ディレクター 杉山 賢明(東北大学大学院 助教、みんらぼシニアフェロー)
【主催】一般社団法人みんなの健康らぼ (代表理事 杉山 麗子)
【共催】紫波町
【参集者】町民、医療介護関係者、紫波町職員など約100人が、市民交流ステージの会場を埋め尽くすように参加しました。
参集者の相互交流のための工夫
本シンポジウムでは、講師と参加者のリアルタイムな対話を創出するために、アプリ「Slido」(右参照)を用いました。おかげさまで、参加者より多くのご意見を頂きました。対話内容を詳細にご覧になりたい方は、下QRコードよりご覧ください。
基調講演の概要
[小坂 健 教授は、宮城県や岩沼市、石巻市で地域包括ケアシステムの構築に委員として関わる傍ら、仙台市で訪問診療を行うなど、医療と介護の現場に精通しています]
オープニングはアイスブレーキングとして参加者が2人1組になって、「勝った回数がより多かった組」を表彰することを目的とした指相撲をしました。これはConflict Managementについて知るためのゲームです。Conflictとは「意見や利害の対立」を意味します。Conflict Managementは、Conflictを、組織の活性化や成長の機会として積極的に受け入れて、問題解決を図ろうとする考え方のことです。先の指相撲ならば、どちらかが「わざと」負けるようにすれば、「組」として「勝利」できます。こうして、利害関係が対立する者同士でも、同一のゴールに向かって協力し合えます。
また、行政や民間組織、非営利組織、近隣が「ごちゃまぜ」に協働する文化が必要です。こうした人とのつながりが健康にのぞましいことは、小坂氏が携わる宮城県岩沼での調査をはじめとして様々な研究によって証明されています。また、英国では2018年に孤立担当大臣が創出され、孤立に対する積極策として「社会的処方」を取り入れています。これにより、例えば、痛みのために薬を多剤内服する方が、コミュニティの中のネットワークに加わることによって痛みを忘れられることにつながるメリットがあります。
最後に、「健康」の再定義も必要であると考えます。従来の世界保健機関の定義では、「健康」とは「単に疾患がないとか虚弱でない状態ではなく,身体的・精神的・社会的に完全に良い状態」を指していたが、現代では障がい者も高齢者も誰一人取り残されることなく安心して暮らせる社会が望まれます。そこで、従来の健康の概念を一歩先に進めて、人間の成長や生活の質を高めるために健康でいることを目指した“Positive Health”の概念を取り入れるべきです。この概念に沿った仙台市や金沢市の民間レベルでの取り組みを紹介しました。
講演2
[出野紀子氏は、Studio-Lに所属するコミュニティデザイナーとして、全国各地の自治体の依頼を受けて、住民がまちの主役としてまちおこし事業の計画に参画・合意形成・実行するプロセスを支援しています]
今回は、Studio-Lが関わっている自治体事業の1つとして、川崎市の取り組みを紹介しました。川崎市は人口約150万、高齢化20%。全国でも比較的若い人が多い都市です。ここで、パラリンピック2020年で英国代表のホストタウンとなったことをきっかけに、パラムーブメントの市民参加プロジェクトを川崎市が進めており、そのひとつとして「かってにおもてなし大作戦」をStudio-Lが担当することになりました。
Studio-Lの活動はまずリサーチから始まります。川崎の特色を把握するために、川崎で活動している人、障害者支援団体、外国人等を対象にヒアリング調査を行いました。そこで見えた川崎像は、溢れる地元愛やローカルなつながりでした。次に、これらの地域像が確かなものなのかフィールドワーク調査を行いました。「南武線遠足」と称して、川崎市を縦断するJR南武線沿線に乗って遠足するイベントを企画しました。これにより、地域資源を地元の人に教えてもらい、外国人・障害のある人等と一緒に遠足することで相互理解を深めます。この遠足で出会う人から人を紹介してもらい、様々な市の資源を発掘できました。これをきっかけに、市民の一人が「勝手に」小冊子にまとめてローカル誌「川崎時間」を発刊したところ、地元で知名度が上がりました。
次に、「かってにおもてなし大作戦」のキックオフイベントを行い、より多くの市民参画を促しました。様々なアイディアをグルーピングし、個々のテーマを基に、既に川崎市で活動しているクリエイターにサポーターを依頼しました。この連携をもとに、「大作戦」の説明会イベントを行い、大きな反響を得て市民の自信につながりました。一方で、つい頑張りすぎて企画を大きくしてしまったため、「大作戦」の持続性・継続性を考えて「一人でもできるようサポートしていく」ことが大切であるという次の「市民講座」のステージに入りました。
市民講座は全4回×市内4カ所で合計70人が集まり、自分の好きなことを勝手におもてなしする作戦を練りました。大作戦のポイントは4つです。 ①自分が楽しいと思うことをやる、②1人でやる、③無料でやる、④お客さんは3人来たらOKです。マジック・あみだくじ・くす玉を披露したり、養命酒やコーヒーをサービスするスナックやカフェもありました。さらにこの講座を広く一般に知ってもらうためにPR動画を製作することになりました。それがロックバンド「クイーン」に変装して、多摩川沿いの野球少年や駅前のサラリーマンを、「クイーンの曲にあわせて応援」することでした。参画した子どもたちは楽しさで興奮しすぎて夜も眠れないという効果も生まれました。
以上のように川崎市とStudio-Lの共同事業を紹介しました。市民参画を促すパブリック活動は、その「正しさ」が全面に出ることが一般的であるが、その活動を拡大展開・持続するためには「楽しさ」がより重要な視点となります。そして「楽しさ」は個人の好みから端を発してもよく、一人一人が楽しさを展開すれば、それが大きな輪となって、地域の暮らしが楽しいものになると考えます。紫波町でもいかがでしょうか。
講演3
[高橋真土香氏は、現在仙台市内の訪問看護師として勤務していますが、2020年2月より紫波町地域おこし協力隊隊員となり、ヘルスコーディネーター「コミュニティナース」の役割を担います]
岩手県出身で、岩手県で看護師資格をとり、県内各地で病院看護師をしてきました。患者さんの看護をすることは充実はしていましたが、一方で多忙な病院業務にとらわれるあまり、患者さんの生活が見えなくなっていくことに疑問を感じていました。
そこで、看護師としての仕事を一旦休憩してリフレッシュすることを決めました。リフレッシュといっても、単にじっとすることも性に合わず、知人の経営する居酒屋でアルバイトをすることになりました。まかない付きの働き口だったことが大いに関係していたことは否めません(笑)。こうして働き始めると、健康を話題にするお客さんが多いという発見があり、知らず知らずのうちに、健診結果を持参するお客さんの健康相談に乗ることが多くなりました。このようにして、看護師と居酒屋店員、一見するとかけ離れた職種を掛け合わせると、実は住民の生活の伴奏者になれるのではないかと考えるようになりました。それこそが自分のやりたかったことに近いと考えるようになりました。
そこで、それを実践するべく訪問看護師として復職しました。皆さん、在宅医療をご存知でしょうか。医療機関に通院できなくなった患者さんのお宅を医療者が訪ねて、医療や介護ケアを提供するというものです。お宅に訪問するので、患者さんの生活そのものを体感することができます。そして、長く訪問看護師として患者さんと関わっていくと、やがてその方の終末期にも携わるようになります。終末期のケアを自宅で行うことはとても大変なことですが、ご本人が住み慣れた生活環境で最期を迎えることは、自然なことでありながら、ご本人やご家族の満足度が高いことを実感してきました。愛着のある地元でこのような医療介護に加えて、生活に密着した一人の人間として、地域貢献できたらいいなと思い続きてきました。
それが「コミュニティナース」を知ることになったきっかけです。詳しくは「コミュニティナースプロジェクト」で検索すると知ることができますが、3か月間で東京や軽井沢で複数回の講座やワークショップを受講し、「コミュニティナース」の修了証がもらえます(一般社団法人による資格制度なので国家資格ではありません)。
コミュニティナースは、看護師が地域に草の根レベルで関わり、住民の方々の医療相談に気軽に乗りつつ、医療や介護サービスでは満たせない「暮らしの困りごと」に対しては、地域の様々なコミュニティ活動につないでサポートする役割を担っています。今回、愛する岩手県に貢献するという意味を込めて、実家が近い紫波町に、地域おこし協力隊として帰属し、コミュニティナースもしくはヘルスコーディネーターとして地域貢献したいと考えます。たくさんの方とお知り合いになりたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
トークショー
登壇者:熊谷町長・小坂教授・出野氏・高橋氏、司会:坪谷氏
講演者による講演を受けて、会場の参加者や講演者同士の意見交換を行いました。
まず、コミュニティナース自身の生活はどう保障されるのかという質問に対して、紫波町が総務省の「地域おこし協力隊」事業に対する助成を用いて実施されることが確認されました。紫波町はこれまでにも多数の地域おこし協力隊事業を実施してきた実績があります。今回は、医療介護の現場を経験してきたヘルスコーディネーターと、町役場の保健医療・介護福祉部門と協働し、より安心して暮らせるまちづくりを目指します。
地域のどのような組織との連携を想定しているかという質問や、メンタルヘルスが社会課題になっている現状に対する解決策はあるかという質問に対して、歴史的に寺子屋として地域に根差してきた寺社と連携する可能性があるのではないかという会場の参加者(住職)からの意見も出ました。また、地域の資源として公民館が利活用されるとよいという参加者の意見もあり、出野氏は自身のStudio-Lとは別の活動として、公民館の理念と実践に基づいたCo-Minkanという活動を紹介しました(詳細説明は省略します)。
また、小坂氏は、「食」の大切さを復活させることにより、農家から、食材を口にする者までつながる可能性があることを指摘しました。
冒頭のICTアプリに登場した意見のなかには、居酒屋コミュニティナースを推す声が多数みられました。高橋氏はその声に推されて実現させたいという抱負を述べました。それを受けて、昼の活動に「かってにカフェ」する取組みもよいという意見もありました。
みんらぼの代表理事である杉山麗子氏は、介護福祉士であるという立場から、介護の現場では、住民の声にもっと耳を傾けて、一人一人の希望に合ったきめ細かなケアが必要だと述べました。
高橋氏は、自身のライフワークとして、住み慣れた地域でお看取りできる文化が少しでも広がることができるように貢献することを掲げているが、現状として紫波町ではどのような死生観を抱いているかという質問を会場に投げかけました。直接の回答はありませんでしたが、みんらぼの坪谷と杉山は、みんらぼが実践してきた「聞き書き」活動を通して、紫波町の生や死の民俗学について深堀することを約束しました。この活動には既に携わってきた先駆者がいますので、ご紹介頂けますと幸いです。「聞き書き」については、紫波町図書館の司書である手塚美希氏が紫波町図書館で特集していることをアナウンスしました。
その他
本シンポジウムでは、イントラクティブな会話を、リラックスしながら楽しめるように、コーヒー無料サービス(コーヒー提供:KURIYA COFFEE ROASTERS)や、みんらぼ所属の杉山麗子氏・奈苗氏・賢明氏の手作りによるスイートポテト無料提供も行いました。
本シンポジウムの映像は後日Youtube配信します。また、紫波図書館でDVD貸出もしています。
謝辞
運営に協力して下さった山本貴文氏・池田登顕氏・吉田貴博氏(会場設営)および小野寺保氏(写真提供)に感謝の意を申し上げます。また、ご参加いただいた皆様に御礼を申し上げます。
主催より一言
今後もみんらぼはこのような企画を提供してまいります。ぜひ引き続きフォロー下さい。