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【研究・出版】厚労科研「へき地医療研究班」の岩手県サイトビジットをコーディネート

出版・研究

2026年7月30日から8月1日までの2泊3日、岩手県紫波町・花巻市を舞台に、厚生労働科学研究「へき地医療の現状把握と人口動態に基づく医療ニーズを考慮した将来のへき地医療体制の構築に資する調査研究」のサイトビジットが行われました。

今回、一般社団法人みんなの健康らぼ代表理事・坪谷透が、研究分担者・現地コーディネーターとして、訪問先との調整や現地プログラムのアレンジを担当しました。その様子の一部をご報告します。

研究班の先生方だけでなく、厚生労働省、自治体、地域活動の実践者、医療・介護関係者など、多くの方々にご協力いただいた2泊3日となりました。

1日目:紫波町で「まちづくり」から地域医療を考える

まずは紫波町からスタートしました。最初に訪れたのは、全国的にも公民連携(PPP)の先進事例として知られるオガールです。

——「え?行くのは医療機関じゃないの?」

そういう声が聞こえてきそうです。たしかに、へき地医療の視察というと、先進的な取り組みをしている病院を訪ねるのが一般的かもしれません。

しかし、今回の視察では(理由は後述)、単に「地方の医療機関を見てまわる」のではなく、

人口が減少する地域で、暮らしそのものをどう維持していくのか。その中に医療をどう位置づけるのか

という視点を大切にしました。

紫波町からは、公民連携(PPP)によるまちづくりの経緯やオガールプロジェクトなどについて、詳しくご説明いただきました。資料には、紫波町のPPPの考え方から、オガールエリアの土地利用、公共施設と民間施設の組み合わせまで、長年にわたる取り組みがまとめられていました。

その後は、紫波町長を表敬訪問しました。町長、副町長、生活部長、保健担当の皆さんにご対応いただき、紫波町の現状や将来について意見交換しました。

集合写真はAIで加工しています

行政・地域活動・研究班のメンバーによる意見交換会も開催しました。今回のプログラムでは、初日にオガール視察、町長表敬訪問、意見交換会までを一続きに組み込みました。

2日目:地域コミュニティから大迫の医療・介護まで

2日目は、さらに「生活の現場」に入っていきました。

午前中は、紫波町で地域コミュニティ活動を視察しました。一般社団法人くらしの研究室(代表理事・星まどかさん)は、看護を軸に「誰もがHappyに豊かにくらす」を掲げ、地域での健康づくりや「くらしの保健室」「みんなの畑(畑多楽縁)」などの活動を行っている団体です。
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午後は花巻市へ移動し、花巻市長を表敬訪問しました。花巻市の概略や、郊外での医療アクセスへの取り組みについてご説明いただき、議論を深めました。

集合写真はAIで加工しています

そこからさらに、花巻市大迫地区へ移動しました。

大迫では、特別養護老人ホームの経営者、社会福祉協議会、行政、地域団体など、実際に地域を支えている方々に集まっていただき、研究班によるインタビュー・意見交換を実施しました。

最後に、介護老人保健施設はやちねの里も訪問しました。

集合写真はAIで加工しています

ここで重要だったのは、やはり

「へき地医療=へき地診療所・病院を見ること」ではない、

ということです。

医療機関だけを見ても、これからの地域医療は分かりません。

  • 高齢者はどのように病院へ行っているのか
  • 交通はどうなっているのか
  • 生活を支える介護サービスは維持できるのか
  • 地域活動を担っている人はいるのか

そして、人口減少がさらに進んだ10年後、20年後にも、現在の仕組みを維持できるのか。そうした問題を、医療・介護だけに限定せず、地域全体から考える視察になりました。

「病院まで何km?」だけでは、へき地は測れない

今回の視察で特に印象的だったのは、行政や地域住民から「医療にはそれほど困っていない」という声が繰り返し聞かれたことです。研究班の振り返りでも、この点は大きな論点になりました。

現在の無医地区の考え方では、医療機関からの距離が重要な指標とされています。しかし、自動車社会では、数km離れていても車ならすぐです。逆に、医療機関までの直線距離がそれほど遠くなくても、車を運転できなくなった高齢者には大きな障壁になり得ます。

実際、班会議では、「車で10〜20分走れば大きな病院に到達できる」という現実と、従来の4kmという基準とのギャップが議論されました。

そこで重要になるのが、モビリティ(移動手段)です。すでに紫波町・花巻市では、デマンドバスやデマンドタクシーなどが医療アクセスを補っています。

つまり、

「近くに診療所があるか」だけでなく、「必要な医療まで移動できるか」を測る必要があるのではないか、

ということです。市町村の現場では、すでにそうした対応を政策として進めているところもあります。

班会議でも、「医療機関の建物より移動手段の確保こそが医療アクセスの本質」という議論に発展しました。

人口減少地域に必要なのは、医療施設を「増やす」「維持する」議論だけではない

もう一つの大きなテーマが、縮小する地域をどう支えるかでした。

大迫地区では、今後、高齢者人口そのものも減少していきます。これは大迫に限らず、日本各地で起こることです。

これまでの地域医療政策では、

  • 「医師が足りない。どうやって医師を連れてくるのか」
  • 「診療所を残さなければならない」
  • 「病院を維持しなければならない」

という、「不足を埋める」発想が中心でした。しかし、人口が本格的に減少する地域では、それだけでは十分ではありません。

医療・介護をどのように集約し、地域として上手に縮んでいくか、

これも重要な政策課題です。

実際に班会議では、大迫地区について「いかにうまく縮むか」が現実的な課題であることや、地方の介護施設が抱える構造的な経営問題、医療・介護・福祉法人の統合・再編についても議論されました。これは、今後日本各地で起こってくる問題だと思います。

最終日は紫波町で班会議

最終日は、朝から紫波町情報交流館の会議室に研究班が集合しました。

朝から昼過ぎまで、現地とオンラインのハイブリッド形式で班会議を開催しました。2日間のサイトビジットを振り返りながら、「そもそも、これからの時代の『へき地』とは何なのか?」というところまで議論が広がりました。

詳細は割愛しますが、「へき地」という概念そのものを再考する必要性が議論されました。

地域と研究を「つなぐ」のも、みんらぼの仕事

今回のサイトビジットでは、坪谷代表理事が、現地コーディネートを担当する研究分担者として携わりました。正直なところ、かなり大変でした。全体のコンセプトを考え、具体的な内容を練り、関係者に連絡して趣旨を説明し、アポイントを取り、時間配分や事前調整を行い、うまくいかない場合の対応も想定し、事前説明会の資料を準備し……メールの山とも格闘しました。

しかし、こうした準備こそが重要だと考えています。

研究者だけで突然地域にやってきても、地域の本当の姿を見たり、声を聴いたりすることは難しいでしょう。一方で、地域で興味深い取り組みが行われていても、それだけでは全国的な研究や政策にはつながりません。どちらも、関係する人にうまく理解される形で伝わらなければ、その良さは伝わらないのです。

そこで、

  • 地域の人たち
  • 地方自治体
  • 現場(医療・介護現場)
  • 研究者(大学・研究機関)
  • 政策(厚生労働省)

を、それぞれの人に伝わる形に翻訳する「翻訳者」としてつなぐ。これも、みんなの健康らぼが担える役割の一つだと考えています。

今回の班会議では、医療機関だけでなく、地域コミュニティや「地域で支える」という観点から視察したこと、そして交通アクセスという視点を何度も議論したことが、今後のへき地医療の在り方を考えるうえで重要な論点になったのではないかと思っています。

2泊3日、お疲れさまでした

オガール視察から始まり、紫波町長への表敬訪問、地域コミュニティ活動の視察、花巻市長への表敬訪問、大迫地区での介護事業者の会合の見学、地域関係者へのインタビュー、老健はやちねの里の訪問、そしてまとめの班会議まで。かなり盛りだくさんの2泊3日でした。アレンジした立場としては、大きな事故やトラブルもなく、おおむね予定通りスムーズに進み、充実した時間を過ごせてほっとしています。

全国から岩手までお越しいただいた研究班の先生方、厚生労働省の皆さま、そして何より、視察を受け入れていただいた紫波町・花巻市・大迫地区をはじめとする地域の皆さま、本当にありがとうございました。

今回の岩手県サイトビジットは、「へき地に何を新しく作るか」だけではなく、「人口が減少する地域で、医療を含めた暮らしをどう持続可能な形に組み替えていくか」を考える、非常に良い機会になったと思います。

みんなの健康らぼでは、これからも地域の実践と研究、そして政策をつなぐ活動に取り組んでまいります。

文責:つぼや