
岩手県副知事をはじめ、政策企画部など県庁の皆さんを、まどかさんの畑にお招きしました。
一般社団法人くらしの研究室(代表理事:星真土香)のNOTEはこちらです。
会議室ではなく、実際の畑へ
土があり、野菜や花が育ち、人が集まり、話し、時には一緒に手を動かす。
そんな場所に立ちながら、「この畑が地域にとってどんな意味を持ち得るのか」を皆さんと考える機会となりました。
話は農業だけにとどまらず、社会的処方、孤独・孤立、居場所づくり、健康、農村RMO、人口減少地域におけるコミュニティの維持――と広がり、非常に盛り上がった意見交換となりました。
「健康」をつくるのは、病院だけではない
みんなの健康らぼが以前から大切にしている視点の一つが、
「健康は医療機関の中だけでつくられるものではない」
ということです。ケアを支えるのも、介護や福祉施設だけではありません。
例えば、一人暮らしになって外出する機会が減った人に必要なのは、本当に薬だけでしょうか。
仕事を辞めて人との接点がなくなった人、家に閉じこもりがちになった人、地域とのつながりを失った人に対して、診察室だけでできることには限界があります。
そこで近年注目されている考え方が、「社会的処方(Social Prescribing)」です。
医療・福祉だけで問題を抱え込むのではなく、地域活動、趣味、運動、ボランティア、交流の場など、その人に合った地域の資源につなげていく考え方です。
孤独・孤立や生活困窮などの課題を抱える人が、地域社会とつながりながら生活できる体制をつくることは、すでに国の政策上も重要なテーマとなっています。
では、「畑」は社会的処方になり得るのか
今回、実際に畑を歩きながら話す中で、改めて感じたことがあります。それは、畑は、社会的処方の「処方先」になり得るのではないかということです。
畑には、とても興味深い特徴があります。それは、
「支援される人」と「支援する人」を明確に分けなくてもよい
のです。今日は野菜を収穫する人かもしれない。別の日には、誰かに栽培方法を教える人かもしれない。あるいは、何もしないでお茶を飲んで話して帰るだけでもいい。
つまり、そこには居場所があり、役割があり、人との接点があり、身体を動かす機会があり、自然との接触があります。
「福祉施設へ行く」「相談窓口へ行く」といった身構えてしまう場所ではなく、ただ畑に行けばよい。この敷居の低さは、地域づくりを考えるうえで非常に重要だと考えています。
厚生労働省も最近、孤立・ひきこもりへの対応として、「安心できる居場所」とともに、自分のペースで社会と関われる「ゆるやかな出番」を地域につくることの重要性を紹介しています。まどかさんの畑には、まさにそれに近いものがあります。
参考:厚生労働省 Webマガジン(ひきこもり——誰もが生きやすい社会へ)
そして議論は「農村RMO」へ
今回、特に話が広がったのが、農村RMO(農村型地域運営組織)です。RMOは、Region Management Organization の略です。
農村RMOでは、単に農地を守るだけではなく、農地保全+農業を軸とした経済活動+生活支援+コミュニティ維持を一体的に考えます。
人口減少と高齢化が進む地域では、農業、福祉、交通、買い物、交流などを、それぞれ別々の縦割り事業として維持することが難しくなってきます。ならば、地域そのものを一つの単位として考えられないか。非常に合理的な発想です。
「畑×健康×福祉×地域づくり」は、実は一本につながっている
ここが、今回の意見交換で特に興味深かった点です。一見すると、
- 農業政策
- 医療政策
- 介護・福祉政策
- 孤独・孤立対策
- 地域振興
- 高齢者の社会参加
- 農村RMO
は、別々の政策分野に見えます。しかし、実際の地域では分かれていません。
例えば、高齢者が畑に来る。
- 身体を動かす。
- 人と話す。
- 顔見知りができる。
- 野菜を育てる。
- 収穫する。
- 誰かに渡す。
- 「ありがとう」と言われる。
それだけで、運動、社会参加、生きがい、孤立予防、地域活動、農地利用が同時に起こります。行政側から見れば複数部局にまたがる話でも、住民の日常生活から見れば一つの出来事なのです。


だからこそ、こうした現場を行政の皆さんに実際に見ていただき、畑の中で話ができたことには、大きな意味があったと思います。
「支援する場所」ではなく「普通に人が集まる場所」を増やしたい
個人的には、これからの地域共生社会を考えるとき、福祉的な目的を前面に出しすぎないことも重要だと感じています。
「孤独な人はこちらへ」
「高齢者はこちらへ」
「支援が必要な人はこちらへ」
と分類すればするほど、かえって参加しにくくなることがあります。そうではなく、
野菜を育てたいから来る。
誰かと話したいから来る。
暇だから来る。
子どもを連れて来る。
散歩の途中で寄る。
地域の役に立ちたいから来る。なんとなく行きたいから行く。
その中に、結果として社会的処方や孤立予防、介護予防、地域づくりが含まれている。そんな場所のほうが、持続可能なのかもしれません。
会議室では見えないものが、畑では見える
今回、副知事をはじめ県庁の皆さんと畑を歩きながら話す中で印象的だったのは、政策の話と現場の風景がその場でつながっていくことでした。
農村RMOという言葉を資料で読むのと、実際に畑に立って、
「ここに人が集まったら?」
「高齢者も子どもも来たら?」
「医療や福祉からここにつなげられたら?」
「地域運営の仕組みとして発展させたら?」
と考えるのとでは、見えてくるものが違います。
岩手県自身も、人口減少下で「人と人とのつながりを守り、育てる仕組み」を重要な政策課題に掲げ、農村RMOへの支援などを進めています。

参考:岩手県の資料(PDF)
だからこそ、畑という小さな現場と県レベルの政策をどう接続するかは、これから非常に面白いテーマになりそうです。
畑から、地域の未来を考える
人口減少が進む岩手では、すべてを新しくつくることはできません。
むしろ必要なのは、地域にすでに存在しているものを別の視点から捉え直し、再構築することではないでしょうか。
畑を農産物の生産場所と考えれば、「農業」です。
しかし、人が集まる場所と考えれば、「コミュニティ」です。
身体を動かす場所なら、「健康づくり」です。
孤立した人が地域と再びつながる場所なら、「社会的処方」です。
高齢者が役割を持てる場所なら、「介護予防」や「社会参加」です。
そして、それらを地域で持続可能な仕組みにしていけば、「農村RMO」につながっていきます。
一つの畑から、これだけ多くの政策課題を考えることができる。今回の訪問は、その可能性を改めて実感する、とても刺激的な時間となりました。
お越しいただいた岩手県副知事、県庁の皆さま、そして現場をご案内くださったまどかさん、本当にありがとうございました。
みんなの健康らぼとしても、「医療だけではつくれない健康」を地域の中でどうつくっていくのか、これからも現場から考え、実践してまいります。


